紅蓮
緋色 side



集合として指定した場所、
紅蓮の倉庫には既に仲間が全員集まっていた。

壁にかけてある誰かがデコってキラッキラにした時計は5時45分をさす


「一華〜
さすがにあの晩飯はないんじゃない?
胃もたれハンパない…っ」


腹を抱えて呻くあたしに読んでいた雑誌からスッと流し目で視線を移してくる。
やっぱり憎らしいなその色気
恨めしげな視線を送りながら神様は不平等だと罵っていると、目の前の一華さんはなぜかすっごい哀れなものをみるかのような目であたしの事をみていた。


「全部口から漏れてんのよ」

「ついにこのもどかしい気持ちにも歯止めが効かなくなったようだ」

「…はぁ」


悩ましい溜め息を真っ赤な唇からもらす


「そもそもあんたが欲張っておかわりするからじゃねぇの」


そしてあろうことか今までの会話を全て放り投げあたしが最初一華にふった話題の返事が返ってきた。
もういい。
あたしももう大人だからそんなこと一々気にしない…っ


「カツ丼なんて作るからだよ〜
一華の料理美味しいからだよ〜」

「あらそ」


一言そう言ってまた雑誌に視線を戻した。
せっかく褒めたのに。

今晩の夕ご飯は紅蓮のメンバー全員で一華の家でカツ丼を食べた。
カツ丼の『カツ』と勝利の『勝つ』を掛け合わせてのことだ。
受験生の朝ごはんか前日の夕ご飯みたいだ。

それでもカツ丼を食べる程今回は舐めてかかれないくらいの大事に値する。
だからこれはいわば願掛けなのだ

南町の家は大抵大きな木造家屋。
一華の家もその部類で紅蓮メンバー50人なんて容易く入る。
もう有り余るぐらいだ。


ぶーたら言いながら一華を観察する。

長い艶艶とした金髪は今日は縛らないみたいだ。
右目に黒い眼帯を付けていて左目は綺麗にメイクを施されている。
白い健康的な肌も相変わらず綺麗だし、唇は元々赤かったのをより一層赤く、口紅を塗ったみたいだ。
本来なら唇だけ異様に赤くては気持ち悪く怖い筈なのに、一華がするとなぜかしっくりきて逆に美人さが際立つ。
紅い特攻服の下には南紅高校の制服。

紅蓮は皆、紅い特攻服の下には南紅高校の制服を着用している。
そうしている理由は知らないが、昔からそうしているからなんとなくそれで落ち着いている。

そして長く細く白い綺麗な素足を惜しげもなく晒して真っ赤なピンヒールをはいている。

さすがだ…
いつもと変わらない一華のスタイル。


辺りを見回すと、皆紅い特攻服の下に南紅高校の制服。
靴にはハイヒールやピンヒール…

あたしがあんなのはいたらヒールが折れかねない。
まず歩くこともままならない。

そして、綺麗に化粧をして、ある者は一華みたいに眼帯をしたり
またある者はマスクをしていたり、それ専用の革のマスクをしている子もいる。
あとは大きなゴーグルをつけている子もいた。
そして他にも身体の何処かに包帯を巻いたりと個々でいろんなものをつけている。

美琴にいたっては特攻服の下…、制服の上に薄手の大きいサイズのパーカーを着てフードを被り、完全に口から上を隠している。
この中で顔を隠していないのなんて優芽と海子とあたしぐらいだ。

自分の服装をみてみる。
紅蓮の中では皆よりも紅い特攻服。
背中には大きく“紅蓮17代目”と黒い字で刺繍されている。
あたしは総長だから皆みたいに顔を隠すような事はできないし、包帯を何処かに巻くこともできない。
ボンバーな赤髪はポニーテールで一纏め
顔は無理矢理化粧してこようとしたメンバーから逃げ切り何もしていない。
化粧ってなんか、むず痒いじゃないか…!


「緋色、そろそろ」


女子力について考えているうちに既に10分が経過していたらしく、美琴に声をかけてもらうまで気づかなかった。

ぐるっと辺りを見回してみる。
特徴的な髪色の子が2人足りない


「優芽と海子は?」

「もう外」

「はやいな。
了解。じゃ、行こうか。一華!」

「えぇ」

「美琴は明日香とニケツな」

「うん」


歩き出したあたしの後ろを一華と美琴がついてくる足音が聞こえる。

さっきからマフラーをふかす音がきこえていたけど、建物を出るとその音がより一層大きくなった。
一華の家から出発するのはあまりの騒音に近所迷惑になると思ったから海の方まで来た。
ここなら少しは煩くない。はず。


あとはあたしがバイクに跨って、
皆の先頭に立つだけだ。

先頭には夕日に照らされ光を反射するあたしの銀の愛車がある。

跨りエンジンをかけて後ろを振り返ると一華ももう自分の愛車に乗りマフラーをふかせていた。
そのもっと後ろは美琴も明日香の後ろにもう乗っている。


「旗はもったかぁ?」


最低でも45台はあるバイクの爆音に負けないよう大声を張り上げる。


「持ったよー‼︎」


後ろで応えるように声が上がり、左右に2本大きな旗も上がる

燃えるようなオレンジと朱色のコントラバスの地に黒で大きく“紅蓮”と刺繍された旗。

夕日の中潮風にたなびくその旗に満足気に笑い頷く。
そしてさっきよりも声を張り上げる


「北に勝って、帰りに岩島と辻霧をギャフンと言わせてやんぞ‼︎‼︎!」

「おぉ‼︎!」

「もっちろん‼︎」

「おい、爆竹持ったか⁈‼︎」

「完璧さね‼︎‼︎!」


きゃっきゃ騒ぐ声に笑って、


「行くぞ‼︎‼︎!」


というと、
それ以上の大声で


『おぉ‼︎‼︎!』


と返ってきた。

その声を合図に一気にバイクが轟音を奏で地を転がす。