名前を呼ぶ、その行為が初めてだと気付いて、薄っぺらい関係性に納得した。この綺麗な顔をした悪魔はどんな反応をするんだろう。まだひたすら無表情を貫くこの男の顔をあたしも無表情に眺める。もしかしたら、呼び捨てした事に怒りの裁きが下されるかもしれないけど、一歩踏み出せた、否、一歩大人になった自分を褒めてやろう。




「…なに」



短い沈黙の果てに、【灰原千景】から零れたのはただその一言。



「…いや、呼んだだけです」


これは予想外。困る。いつもの俺様ぶりを発揮してもらわないと。あたしは口を噤んで物思いに耽った。