だから、知らない。HRが終わって真っ直ぐ帰る途中に、階段ですれ違った生チョコブラウンの髪、スーツを着た女性が新任の教師だった事も、下駄箱の前であたしを阻む長い足も。
「間宮」
今日は早く寝よう。
「花」
疲れたから今日はバスロマンだ。
「花」
「名前で呼ばないで下さい」
クソ、反応してしまった。地獄に落ちろ。いや、地獄に帰れ。
片手にスポーツバッグ。部活に向かうのか、乱れたシャツ。無造作な髪がサラリと落ちる。その形の良い唇を意識して最悪だ。
「…ごめん、」
それが紡いだ言葉も出来れば無視したい。