結局、標本を取ってくるという使命も果たせないまま、5時限目は始まり、あの場所にもう一度行く気にもなれず、温和な化学教師に頭を下げる。化学教師は『ん?今日は使わないから構わないよー。明日の授業の前にお願い』とにこやかに微笑んだ。くそったれ。

梓は「口元こすった?なんか異常に赤いよ」と中々見事な着眼点であたしを覗き込んでいた。貴女のあの“チュウ”の単語が正にグルグルと頭を渦巻いてますよ。もしかして呪いかけましたか。



あたしは、梓の追求を逃れ、いつも通り、教科書を開いて真ん中の列三番目という中途半端な席で、黒板の文字を追う。

何も無かった事にすればいい。

悪魔の気まぐれにはついていけない。大丈夫、平静だ。


例え、頭の中は、フツフツと爆発しそうな説明出来ない思考が渦巻いていたとしても。