この悪魔みたいに綺麗な男を力いっぱい睨む。
「…そーゆう顔も嫌いじゃないな」
ククと笑うこの男の顔には反省のはの字も見えない。
「なんて事、するんですか」
あたしは訳の分からない感情に纏われて必死だ。乙女の唇を何だと思ってる!
「減るもんじゃないし」
「減りますよ。少なくとも乙女としての大事な何かが!」
珍しく声を荒げたあたしに、灰原は笑う。
「じゃあ、もっかいしようか」
その乙女としての大事な“なにか”が何なのか教えてやる、という悪魔。
駄目だ。話が通じない。
最低だ。最低過ぎる。
「…消毒代わりにしないで下さい。」
あたしの口から出た声はまるで他人のように冷ややかに、
「最低ですよ」
真っ直ぐ睨みつけて、灰原千景の返事も待たず、背中を向けた。