いや、というか、アレが【灰原千景】という名前なのだという事を知らなかっただけで。決してあたしがオタクで根暗なわけだから、自分の世界に入り過ぎて現実に膜を張ってるからじゃない。いや、それもあるかもしんないけども。
―――「やあドブスちゃん」
確かに頭の上からドシンと落ちてきた低い声。傍若無人で、性格すら否定されたようなその一言も、聞き慣れてきた最近。『ド』がついてる時点で、今夜も、枕を涙で濡らすな。
「帰ろうか」
その低い声の主はあたしの首を(正確には制服?)猫のようにつまんで、スタスタと歩き出す。