斎藤君の席に座った目の前の友人を眺めながら毎度、不思議に思う疑問文は口には出さない。意味がないし面倒くさいから。


「あのさ、あたし変な噂聞いたんだけどさ」


梓が綺麗に上を向いた睫毛達を触りながら、相変わらず耳障りの良い声を続ける。
一度声を止めて何やら考える仕草をしたのは微妙にわざとらしくて、少し演技めいて見えるのは何故。そして背筋にゾワリと何かが走る。