「ハァ、なんかマジで調子狂う。苛つく。」
灰原はまた面倒くさそうに声を落とす。
「とにかく、部活頑張って下さい」
あたしはそんな、灰原千景の腕を掴んでそっと、爪先立ちして――――灰原千景の耳に囁く。
そして何事も無かったかのようにさっさと歩き出す。
灰原は少し呆気にとられたように、ポカンとしていた。
「君、今、」
「なんですか。いつもの仕返しですよ」
「はっ?」
夕焼け色に染まる灰原千景の顔。端正な顔立ちなのに男らしい、意志の強そうな表情は今は間抜けに見える。あたしはフッと笑った。
「左足、早く全快すると良いですね」
『バスケしてるあなたもかっこ良いですが、私は今の間抜け顔の方が好きです』
第一章-終わり-