この人は、自分が今どれだけ目を引くフェロモンみたいなのを垂れ流しにしているか知らないんだろう。

「そうですね。帰れませんね」

一向に構いませんが、と微笑むと、灰原は明ら様に不機嫌な顔をした。

「君本当ムカつく」

「申し訳ないです」

「…なんで敬語?」

「今更、ですか。それはあなたが魔王様だからですよ」

「人間だけど」

「知ってます」

「変な女。そこも、」

「そこも?」

「…いや、やっぱいい」


あれほど、サラリと訳の分からない愛の言葉めいたセリフを時々吐くのに、今言葉を止められると逆に気になる。