・・・・・自惚れんな、俺。
夕美は前俺が見舞いに行ったからずっと看てただけだ。
そう思おうとしても本心では嬉しくなって、顔の筋肉がゆるんでいくのが分かる。
不謹慎にも、熱が出てよかったと思ってしまった。
そのあと俺は担任に連れられて保健室に来た母さんと家に帰った。
教室に置いてあったはずの鞄や教科書が保健室にあったのは、たぶん夕美が持ってきてくれたんだと思う。
明日、礼言わねぇとなぁ・・・・・。
車から伝わる心地よい振動に揺られながら、俺は再び眠りに就いた。
熱が下がった翌日。
学校に着いた俺は真っ先に夕美の教室へと向かった。
「鈴村夕美いる?」
教室のドア付近にいた女子にそう声を掛けると、
「あれー?さっきまでいたんだけど・・・・・」
教室を見渡しながらそう言った。
トイレか?
「わかった。ありがとう」
そう言って俺は夕美の教室を後にする。
また休み時間にでも来るか・・・・・。
だけど、休み時間に夕美の教室に行っても夕美の姿はどこにもない。
学校に来ていることは来ている。
「お前それ、避けられてんじゃねぇの?」
夕美の教室から戻ってきた俺に話を聞いた蒼佑は、バッサリとそう言った。
「お、前なぁ・・・・・人が考えないようにしていることをよくもズバッと・・・・・」
「いや、だってそうだろ。さすがに休み時間ごとにトイレ行くってなくね?」
心のどこかで思っていたことを言われて、言葉に詰まる俺。
「お前何かしたんじゃねぇの?」
そう言われて思いつくのは、熱で倒れた時の保健室での出来事。
・・・・・やっぱ引かれたか?
うざがられた?
「なぁ、蒼佑。俺どうすればいい?」
「知らねーよ。ってかお前そんなキャラだったか?」
ケータイをいじりながらそういう蒼佑。
「お前最初もっとクールだったような気がすんだけど」
「そう言うお前はなんかクールになったよな」
蒼佑は俺の言葉に、よくぞ言ってくれましたとばかりにニヤリと笑いながら俺を見た。
「そりゃあ、彼女できましたからね」
そう言って持っていたスマホの画面を俺に見せる。
そこには幸せそうに笑った蒼佑と女子のツーショットのホーム画面。
「っはあああああああ!?」
俺の叫び声に、クラス中の視線が集まる。
「なに叫んでんだよ」
「どうかしたの?」
透と浩太も、不思議そうな顔をして近づいてきた。
「いや、こいつ、えっ!?まじで言ってんの!?」
「だからどうした」
「こいつ彼女できたって!!!」
俺がそう言うと、
「うん、知ってる」
と答えた透。
「え?」
「知ってる」
「浩太も?」
「うん、知ってる」
お・・・・・
「俺だけが知らなかったのかよ・・・・・」
なんか仲間外れにされた気分だ・・・・・。
「ま、お前も彼女できるように頑張れ☆」
俺の肩に腕を回して蒼佑は言った。
「避けられてる場合じゃないんじゃないのー」
「・・・・・うるせ」
肩に乗っている蒼佑の腕を振り払って考える。
部活の後話すか。
いやでも部活の後も避けられたら?今日部活に来なかったら?
そう考えたが、俺の考えは心配なかったようで。
「お疲れ様でーす」
放課後、部活にはちゃんと夕美の姿があった。
まぁ、この時期に休まねぇか。
来週には、インターハイ予選がある。
三年生にとっては最後の試合だ。
そして、次の二年生の代になる。
だから練習も厳しくなっていて、三年生はみんなピリピリしている。
「おらそこディフェンス!!!ついて行けてねぇぞ!!!」
須藤先輩はみんな以上にピリピリしていて、ここ最近の部活では怒鳴ってばっかりだった。
「健斗!!お前やる気あんのか!?」
「っ、すんません!!」
正直、夕美のことを気にしている場合じゃない。
俺一人のせいで、先輩たちに迷惑かけるわけにはいかない。
だけど、それなら早くにはっきりしてしまったほうがいいような気がして。
「お疲れ様でしたー」
「夕美」
俺は部活後、体育館の入り口で夕美が出てくるのを待っていた。
そんな俺を見た夕美は、少しだけ驚いたような表情になって、すぐに気まずそうに視線を逸らした。
その仕草から、やっぱり夕美が俺のことを避けていたことが分かった。
「あー、とりあえず・・・・・この前はありがとな。ずっと看ててくれたって先生から聞いた」
「あ、うん。全然。健ちゃんも私のお見舞い来てくれてたし・・・・・」
そう言いながらも未だ夕美の視線は地面で、俺の方を見ようとしない。
「今日、避けてたのってやっぱりあの時のこと・・・・・だよな」
その言葉に、少しだけ反応を見せる夕美。
やっぱりか・・・・・。
そして、俺は今日一日考えたことを口にした。
「夕美が迷惑だって言うなら、俺夕美のこと諦める」
「え・・・・・?」
その時、夕美は初めて俺の目を見た。
「今日ずっと考えてた。もうすぐインターハイ予選なのに、部活に集中できてないと先輩にも迷惑かける。俺はたぶんここでちゃんとけじめつけないと、部活に集中できないと思うから」
それに、避けられるのは正直キツイ。
夕美は俺の言葉に、静かに耳を傾ける。