「夕美・・・・・?」
「うん、そうだよ?」
あれ、俺教室にいたのに・・・・・。
そんな俺の心情を察したのか、
「放課後、机に突っ伏しながら熱で気失ってたみたいだよ。透君たちがここまで運んできてくれたの」
と、今までの出来事を話した。
「熱・・・・・」
そうか、だからあんなに頭痛かったのか。
寝起きで未だボーっとする頭で考えていると、
「じゃあ、須藤さんたちに目覚めたこと伝えてくるね」
と夕美は俺が寝ているベッドから離れていく。
その瞬間、反射的に伸びる手。
「・・・・・健ちゃん?」
俺は咄嗟に夕美の腕を掴んでいた。
「・・・・・行くな」
そう言うと困惑した表情になった夕美。
「なぁ・・・・・どこにも行くなよ。他の奴なんか好きになるなよ」
さっきの夢の光景が、鮮明に思い浮かぶ。
「・・・・・俺も、夕美のこと好き。他の誰よりも好きだ」
夕美の腕を握る手に、力がこもる。
何言ってんだよ、俺。
こんなこと言ってもほかの奴らと一緒じゃねぇか。
夕美を困らせるだけじゃねえか。
夕美の腕を掴む俺の手をそっと外すと、
「須藤さんに伝えてくるね」
と言って夕美は今度こそ保健室を出ていった。
・・・・・やべぇ、うざいって思われたかも。
いや、むしろ引かれたか?
何であんなこと言ってしまったんだ、と頭を抱えて布団に潜り込む。
が、まだ体は熱を持っているのかすぐに暑くなって顔を出す。
するとその時、保健室のドアが開く音がして誰かが入ってきた。
夕美か?
そう思ってカーテンの入り口を見ていると、シャッとカーテンが開いた。
そして、そこから顔を出したのは、
「あら、目覚めた?」
保健室の先生だった。
「あ、はい。さっき目覚めました」
「そう。ちょうどよかった。今お母さんに連絡入れて迎えに来てもらうように言ったから」
「ありがとうございます」
「それにしても、いい彼女持ったわね」
先生はニヤッと笑って言う。
「え、いや、まだ彼女では、」
「ふーん。“まだ”ねぇ」
その言葉に、ハッとして顔に熱が集まるのが分かる。
「いや、違くて、」
「ずーっとそばであんたのこと看てたよ」
好かれてるんじゃないの?
先生は最後にそう言って、
「職員会議行ってくるからお母さん来たら準備して帰んな」
と出ていった。
・・・・・自惚れんな、俺。
夕美は前俺が見舞いに行ったからずっと看てただけだ。
そう思おうとしても本心では嬉しくなって、顔の筋肉がゆるんでいくのが分かる。
不謹慎にも、熱が出てよかったと思ってしまった。
そのあと俺は担任に連れられて保健室に来た母さんと家に帰った。
教室に置いてあったはずの鞄や教科書が保健室にあったのは、たぶん夕美が持ってきてくれたんだと思う。
明日、礼言わねぇとなぁ・・・・・。
車から伝わる心地よい振動に揺られながら、俺は再び眠りに就いた。
熱が下がった翌日。
学校に着いた俺は真っ先に夕美の教室へと向かった。
「鈴村夕美いる?」
教室のドア付近にいた女子にそう声を掛けると、
「あれー?さっきまでいたんだけど・・・・・」
教室を見渡しながらそう言った。
トイレか?
「わかった。ありがとう」
そう言って俺は夕美の教室を後にする。
また休み時間にでも来るか・・・・・。
だけど、休み時間に夕美の教室に行っても夕美の姿はどこにもない。
学校に来ていることは来ている。
「お前それ、避けられてんじゃねぇの?」
夕美の教室から戻ってきた俺に話を聞いた蒼佑は、バッサリとそう言った。
「お、前なぁ・・・・・人が考えないようにしていることをよくもズバッと・・・・・」
「いや、だってそうだろ。さすがに休み時間ごとにトイレ行くってなくね?」
心のどこかで思っていたことを言われて、言葉に詰まる俺。
「お前何かしたんじゃねぇの?」
そう言われて思いつくのは、熱で倒れた時の保健室での出来事。
・・・・・やっぱ引かれたか?
うざがられた?
「なぁ、蒼佑。俺どうすればいい?」
「知らねーよ。ってかお前そんなキャラだったか?」
ケータイをいじりながらそういう蒼佑。
「お前最初もっとクールだったような気がすんだけど」
「そう言うお前はなんかクールになったよな」
蒼佑は俺の言葉に、よくぞ言ってくれましたとばかりにニヤリと笑いながら俺を見た。
「そりゃあ、彼女できましたからね」
そう言って持っていたスマホの画面を俺に見せる。
そこには幸せそうに笑った蒼佑と女子のツーショットのホーム画面。
「っはあああああああ!?」
俺の叫び声に、クラス中の視線が集まる。
「なに叫んでんだよ」
「どうかしたの?」
透と浩太も、不思議そうな顔をして近づいてきた。
「いや、こいつ、えっ!?まじで言ってんの!?」
「だからどうした」
「こいつ彼女できたって!!!」
俺がそう言うと、
「うん、知ってる」
と答えた透。
「え?」
「知ってる」
「浩太も?」
「うん、知ってる」
お・・・・・
「俺だけが知らなかったのかよ・・・・・」
なんか仲間外れにされた気分だ・・・・・。