「でも違う!!あたしが悪かったの!!あたしが、あっくんをイライラさせちゃうから・・・・・っ」




どこかで耳にしたことがある、“デートDV”。




「普段は優しいし、あたしのことちゃんと好きだって言ってくれる!!」




被害者は、デートDVされてることに気づかなかったりするって。




「つい手が出ちゃうこともあるけど、そのあとごめんねって謝って、抱きしめてくれる!!」




いろんな感情に囚われることが多いって。




「あっくんは、あたしがいないと生きていけないって言ってた!!」




―—————共依存。




「あっくんは、」




「夕美、そいつと今すぐ別れろ」




俺の言葉に、ピタッと夕美は止まった。




「や、やだ。なんで健ちゃんにそんなこと言われないといけないの?」




「お前、DVされて、」




「違う!!!」




俺の言葉を遮って、夕美は怒鳴った。




「そんなことされてない!あたしがいつも悪いだけ!あっくんも手出したあと後悔してちゃんと謝ってくれる!」




「それがDVだっつってんだよ!!体中痣だらけになって、どこが大事にされてんだよ!!」




「ちが、」




「違わねぇよ!………夕美、このままじゃお前がダメになっちまうんだよ」




喉の奥が熱い。




「部活休むようになったのも、そいつが関係してんだろ?」




目の奥が熱い。




「夕美………お願いだから、別れて」




「………なんで、健ちゃんが泣いてるの?」




「………え?」



自分でも気づかないうちに、涙が溢れていて。




「………夕美が、好きだからだよ」




その言葉はごく自然に、俺の口から出ていた。


「・・・・・え?」




俺の言葉を聞いた夕美は、目を見開いて驚いていた。




「夕美が好きだから、これ以上彼氏に暴力振るわれんのも見てられねぇんだよ」




夕美の手のひらをギュッと握り締める。




「で、でも、そんな態度一度も、」




「最初は、夕美に彼氏がいるってわかってあきらめるつもりだったんだよ。けど無理だったんだよ」




俺の言葉に夕美は静かに耳を傾ける。




「だから、小学生みたいだけど夕美にちょっかい出して気を引こうとした。少しずつ夕美の中に俺の存在ができればって思ってた」




夕美の指に、自分の指を絡める。





「でも、彼氏に暴力振るわれてんなら別れて俺にしろよ。俺は絶対夕美にそんなことしたりしねぇよ」




もう一度、ギュッと夕美の手を握る。




それでも、夕美は手を握り返してこないで・・・・・。




「健ちゃんの気持ちは嬉しい。それに自分がDV受けてるのも分かった」




「じゃあ、」




別れるのか、と聞こうとした言葉を遮って夕美は言った。




「でも、まだあっくんのことが好きだから。一度ちゃんと話し合ってみる」




「話し合ってみるって・・・・・こんだけ暴力振るわれてるのにか?」




まだそんな奴が好きなのかよ・・・・・。





「もしかしたら変わってくれるかもしれないから」




「・・・・・そっか」




他にも言いたいことはあったが、俺はそれだけしか言わなかった。




というより、言えなかった。




夕美はまだあんな奴が変わってくれると信じてる。




でも、絶対変わらないという保証はどこにもない。




「なんかあったら、俺に言えよ」




今の俺には、こんなことしか言えない。




「うん、ありがとう」




夕美は、少しだけ笑ってそう言った。




―—————その次の日から一週間、夕美は学校に姿を現さなかった。




「なぁ、お前何も聞いてねぇの?」




休み時間、透がそう言って近づいてきた。




「なにを」




「何をってお前・・・・・夕美ちゃんのことに決まってんだろ」




呆れた表情をしながらそういう透に、




「いや、何も」




と答える。




「なーんか、事件とかに巻き込まれてなければいいけどな」




不安げに呟いた蒼佑は、意味もなくケータイの電源を入れたり切ったりしている。





「いや、それは大丈夫だと思う」




その俺の言葉に、三人は不思議そうな顔をする。




「なんでそんなことわかるの?」




何を根拠に・・・・・と言いたげな浩太に、




「毎日担任に風邪で休むって連絡入ってるらしい」




と答えると、途端に三人はニヤァって笑うと




「そりゃそうだよなぁ。好きな子が一週間も休んでるのに何も聞いたりしないとかねぇよなぁ」




と三人でからかい始めた。




でも夕美の彼氏の事情を知ってる俺としては、どう考えても夕美が風邪で休んでいるとは思えなかった。





「じゃあさ、見舞い行ってこいよ」



昼休み、ごはんを食べながら蒼佑がそう提案してきた。




「見舞いって・・・・・場所わかんねぇんだけど」




「はぁ!?んなもん誰かに聞けばどうとでもなんだよ!!行くぞ!!」




まだ弁当を食べ掛けの俺を引っ張り上げ椅子から立ち上がらせると、蒼佑は足早に教室を出ていく。




つられるように俺もそのあとをついていき・・・・・。




「で、あたしのとこに来たってわけね」




ドーン、と効果音でもつきそうな感じでかなが仁王立ちして腕を組みながら言った。




「まぁ、はい。そういうわけです」




何故か小さくなる俺と蒼佑。





「うーん、まぁ別にいいけど・・・・・」




その呟きに俺はバッと顔を上げると、




「ただし、あたしもついて行く」




と言ってかなはにっこり笑った。




「あたしも夕美のこと心配だったし。この配布物とかも結構机に溜まってきたからあたしも、」




「いや、」




そういうと二人はキョトンとした顔で俺を見た。




「夕美のとこには、俺一人で行く」




たぶん、夕美はかなに暴力を振るわれていることを言ってない。




だったらかなにはばれたくないだろうし、それに俺の予想ではたぶん夕美は―—————




俺の表情で何かを読み取ったのか、かなは




「じゃあ、今回は譲ってあげるけど・・・・・夕美に手出したら容赦しないからね」




「・・・・・はい」




恐ろしい笑みを浮かべて、俺に地図を手渡した。