だけど、そんな俺の心の中の葛藤も知らずに夕美は、




「なんか健ちゃん、最近冷たくない?」




という。




「そうか?別に冷たくしてるつもりないけど」




「うーん、なんか話してるとき目も合わせないよね」




疑うような視線を向ける夕美に、




「俺目見て話すの苦手なんだよ」




と言って笑う。




「それより――――――――、」




話題を変えようとそう口にするも、なにを話そうか考えてなかったから次の言葉が出てこない。




そんな俺を今度は不思議そうな目で夕美は見る。





あー、っと。




「彼氏とどうなんだよ」




咄嗟に浮かんだ言葉をわざと茶化すような口調で言うと、カッと赤くなる夕美。




その表情に、ズキンと胸が痛んだ。




「ちょ、なんで知ってるの!?」




「あー、まぁいろいろ?」




そう答えながら、俺は不安になる。




・・・・・ちゃと笑えてんのかな。




「べ、別に普通だよ、普通」




熱くなった顔を冷ますようにパタパタと手で扇ぎながら夕美は答える。




聞くんじゃなかった。




聞かなければ、こんなほかの男のことで赤面する夕美なんて見ないですんだのに。







「なんか、すっげー自己嫌悪」




教室に戻った俺は、机に突っ伏して呟く。




「なんだよ、なんかあったのか?」




透が不思議そうな視線をこちらに向けながら言う。




「俺って女々しい・・・・・。前までこんなんじゃなかったのに」




夕美の言葉や言動に、いちいち喜ぶ自分が嫌で仕方がない。




当の本人にはそんなつもり全くないのに。




ましてや彼氏もいて、俺なんかそこらの男子と同じなのに。




「まぁー、しょうがないよ。好きになっちゃったんだから」




浩太が苦笑いでそうフォローするも、気持ちはネガティブ思考のまま。





「ってかさ、別に無理にあきらめようとしなくていいんじゃねぇの?」




ケータイを触りながら、蒼佑が言う。




「好きになっちまったもんはしょうがねぇんだって。アベケンもそこまで好きだったわけじゃないって言ったけど、あれ本心じゃねぇんだろ?」




蒼佑の言葉に、ぐっ・・・・・っと言葉に詰まる。




正直、気を使われるのが嫌で、そこまで好きじゃなかった風に装った。




だけど、そんなウソは蒼佑には通用していなかったらしく。




「好きなら好きでいいじゃん」




俺の方を見て言った蒼佑が、すごくかっこよく見えた。




「・・・・・んだよ、蒼佑のくせに」




突っ伏して小さな声で言ったにも関わらず、蒼佑にはばっちり聞こえていたらしく、




「あぁ?」




不機嫌な声を出した。





「蒼佑のくせにかっこいいこといってんじゃねぇよ」




その言葉を聞いた蒼佑は、




「蒼佑のくせにとはなんだ、くせにとは!!」




と言って俺の首を腕で軽く締める。




「やーめろっ。暑苦しいっつうの!」




「あぁん?まだ肌寒いからちょうどいいくらいだろ。おらっ、蒼佑様かっこいいとでも言え!」




腕の力をさらに加えながら蒼佑は言う。




俺は、夕美が好きだ。




だから、例え夕美に彼氏がいるとしても、自分の気持ちには正直になろうと思った。





夕美への恋心を素直に認めるようになってから数日。




「はい、おつかれさん」




「おー、サンキュ」




部活の休憩時間。




夕美から差し出されたボトルを受け取る。




あれから特に変化のない毎日を送っている。




唯一、変化があったことといえば、




「随分と部員減ったなぁ」




夕美の彼氏情報は瞬く間に部内に広がり、俺たち四人と二人、神田康介(カンダコウスケ)と内田龍太郎(ウチダリュウタロウ)以外の一年が辞めてしまったことだ。




そしてもう一つ。




「夕美に彼氏がいるってわかった途端これだもんねぇ。ほんと、根性ないな」




夕美の友達である斉藤かな(サイトウカナ)がマネージャーとしてバスケ部に入部したくらいだ。





「ったく、あれだけやめるなっつったのに」




須藤さんはタオルでガシガシと頭をふきながら、呆れたように呟く。




それに対し、他の先輩方は苦笑いをこぼす。




「そういや、お前らは普通にバスケしたくて入部したのか?」




ふと、透が思い出したように康介と龍太郎に聞く。




「まぁ、俺らは普通にバスケしたくて。ついでに言うと彼女持ち」




そう言って康介はタレ目を細めてニヤリと笑う。




「俺も」




クールな龍太郎は、そんな康介とは正反対に無表情のままそう言う。




俺も、というのがバスケをしたかったからということにたいしてなのか、はたまた彼女持ちということにたいしてなのかよくわからなかったが、そこは何も聞かないでいた。




「なんか・・・・・すみません」




部員が減った原因が自分にあることを気にしてか、夕美は落ち込んだ表情でそう言った。





「別に、謝ることねぇよ」




眉根を寄せて泣きそうな表情の夕美にそう言うと、




「・・・・・ありがと」




と言って少しだけ微笑んだ。




だけどやっぱり気にしているみたいで。




「はぁ・・・・・」




「なに、まだ気にしてんの?」




部活が終わって道具を片付けてるとき、夕美は小さくため息をついた。




「わぁ!健ちゃん!いつからそこに!?」




「いや、さっきからいたけど」




俺の存在に気づいていなかった夕美は、ビクッと肩を跳ね上がらせたあと少しだけ後ずさった。





そんな夕美に苦笑いをこぼしながら、




「夕美が気にすることじゃねぇって言ってんだろ?別に先輩も怒ったりしてねぇよ」




と俺が言うと、




「いや、でも・・・・・ねぇ?なんていうか、せっかく12人も入部してくれてたのに」




なんとも言えない複雑な表情で夕美が言う。




「そんなに気にするなら、」




彼氏と別れろよ。




そんな言葉が、喉のすぐそこまで出てきそうになる。




でも、




「ん?」




そう言って首をかしげる夕美に、




「・・・・・いや、ちゃんとマネージャーの仕事やれよ」




さっきの言葉を飲み込んだ。