「でも、大丈夫だよ。健ちゃんも大丈夫って言ってくれたし」




夕美はガッツポーズをしながらそう言う。




「おう、大丈夫だ。見舞い、絶対行くからな」




「うん、待ってるね」




俺の手を取り、ギュッと握り締める。




「部活に行けなくて健ちゃんに会えない分の充電中~。あー、せっかくの夏休みなのに、入院のせいで健ちゃんとどこにも行けないのかー」




その行動に、涙が出そうになる。




「じゃあ、俺も」




「うわぁっ!」




グイッと夕美を引き寄せて、抱きしめる。





「辛かったら、なんでも言えよ」




耳元でそう言うと、夕美が頷いたのがわかった。




「よし、じゃあ夕美のお母さんも待ってると思うし・・・・・行くか」




「うん」




本当は、夕美をずっと俺の腕の中に閉じ込めておきたい。




どこにも行かないように、どこにも行かせないように。




この手を離したら、夕美が消えてしまいそうで怖かった。






「じゃあ、お見舞い待ってるね、健ちゃん」




夕美は最後に車の窓から顔を出してそう言うと、車は発進した。




大丈夫、夕美はどこにも行かない。




絶対に、死なない。




その日の翌日から、夕美の闘病生活が始まった。



【病院食味薄くてまずい(T_T)
お母さんのごはんが食べたいよー(;O;)】




【今日は同室のおばあちゃんと仲良くなった!
おばあちゃんかわいい~(*‘ω‘ *)】




夕美からの連絡は、毎日来る。




今日はこんなことがあった、病院でこんな機械を見たと、いろんなことを教えてくれる。




その度に夕美に無性に会いたくなる。




だけど、夕美の入院している病院は俺の地元からはだいぶ離れたところにあり、毎日部活の後に行くのは無理があった。




だから、お見舞いに行くのは唯一部活が休みの日曜日しか行けない。




【もうそろそろ健ちゃん不足(*_*)
早く明日になれ~~~~】




夜。




開いたスマホにそんなラインが届いていて、思わず口元が緩む。





【俺も。そろそろ夕美不足。早く会いたい】




そう送ると同時につく既読の文字。




ずっとライン開いてんのかよ。




そう思って笑いつつ、俺も夕美とのラインの画面を開いたままにする。




すると、




【今日イメチェンしてみた!
明日健ちゃんの反応が楽しみ―♪】




というラインが来た。




【イメチェンって・・・・・何したんだ?】




気になってそう返すと、




【会ってからのお楽しみ!】




そう返ってきて、なんか余計に気になり始めた。





早く、明日になれ・・・・・。




一分、一秒が長く感じてベッドに寝転がりながら何度も寝返りをうつ。




そんな時、再び鳴り響くラインの音。




【明日夕美のお見舞い行くの?】




開いた画面には、そんなかなからのラインが入っていた。




【うん。行く】




そう返すと、




【私も行っていい?】




と、返事が返ってきた。




いつもなら、私も行くって言うのに行っていいか聞くのは、たぶん俺らに気を使っているんだろう。




【全然いいよ。じゃあ一緒に行くか】




そう返すとすぐに




【ありがとう!!】



と返事が来た。



「場所もあんまりわかんないから一人で行くのは不安だったし、断られたらどうしようかと思った」




翌日、駅で合流するなり苦笑いして、かなは言う。




「別に、断ったりしねえよ」




どんだけ冷たいイメージなんだよ、俺は。




そう言って笑うと、




「いや、なんか二人きりの時間を邪魔するな!って感じで」




とかなはまじめな顔して答える。




いや、まぁ、二人きりになりたいかって言われたらなりたいけど・・・・・。




「まぁでも、夕美もかなに会いたがってるだろうし。一緒に行った方が喜ぶと思うぞ」





俺の言葉に、かなは嬉しそうに笑う。





「そうそう。みんなで行ったら夕美ちゃんも喜んでくれる。ってことで俺らも行くぞ」




突然俺らの後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには透と蒼佑と浩太の姿。




「は!?なんでお前らここにいるんだよ!?」




「あー、ごめん。昨日私が言っちゃった」




3人の姿に目を丸くしていると、かなが気まずそうに言った。




「え、本気でついてくるの?」




「当たり前だろう!大事なマネージャーが入院してんだ」




「それにみんなで行けば夕美ちゃんも喜ぶって、アベケンも言ったしな」




「みんな夕美ちゃんのことが心配なんだよ」




浩太にそう言われて、考える。




うーん、まぁ、別にいいか。




「しょうがねえな。絶対病室で騒いだりすんなよ」




こうして、夕美のお見舞いに行くメンバーは5人となった。




コンコン。




病院に着いた俺らは、鈴村夕美という名前がある病室のドアをノックした。




すると、



「はーい」




という夕美の声が中から聞こえる。




「失礼します」




ドアを開けながら小さく呟くとそこにはニット帽をかぶった夕美の姿があった。




「え!!みんな来てくれたの!?」




俺の後ろに視線を向けながら、驚いたように夕美は言う。




「夕美ー!大丈夫?心配したんだから!!」




俺を押しのけ、ベッドに座る夕美に抱き付くかな。



「かなー!私も会いたかった!!」




目の前で、熱い抱擁を交わす二人。




・・・・・先越された。




「おいおい、先越されてんぞ。お前も抱きしめなくていいのか?」




俺の耳元に顔を寄せ、おそらくニヤニヤ顔で言ってるであろう透に、




「うるせぇよ」




と小さい声で返す。




抱きしめたいのは山々なんだっつの・・・・・。




病室に入ると、夕美がこちらを見て




「お見舞い、来てくれてありがとう」




と言って笑った。