「あ、すみませーん!ちょっと写真を・・・・・」
透が近くを通った男性にカメラモードにしたスマホを手渡す。
「じゃあいきますよー。はい、チーズ」
カシャ。
男性の掛け声とともに鳴るシャッター音。
「ありがとうございましたー」
そう言って受け取ったスマホに写った写真を見る。
「おー、いいじゃねぇの。みんないい笑顔!!うん!!」
透は満足そうにうなずいてそう言う。
「あとでみんなに送っとく!夕美ちゃんはアベケンからもらって!」
じゃ、今日は解散!
透がそう言うと、三人とも駅の方へと歩き出す。
「なんか・・・・・ごめん」
三人の後姿を眺めながらそう言うと、
「全然!楽しかったよ。それより私の方こそ奢ってもらっちゃってごめんね?」
と夕美が謝る。
「いや、夕美に奢るのは当たり前だろ。彼氏なんだから」
言った後にハッとして、顔が熱くなるのが分かる。
「あ、うん。彼氏・・・・・うん」
夕美の方を見ると、同じように顔を真っ赤にしていた。
「・・・・・じゃ、もう暗いし帰るか」
何度目かの夕美の家への道のりを、手をつないで歩く。
離さないように、離れていかないように。
ギュッと力を込めて握ると、それにこたえるようにギュッと夕美も握り返す。
「今度は、二人でどこか出かけような」
「うん。いろんなとこ行こうね!!それで、たくさん思い出作ろう」
「あぁ。いろんなとこ連れてってやる」
つないだ手に、ぬくもりを感じなながら思う。
この幸せは、一生手放さないと・・・・・。
家に帰ると、透から二件のラインが入っていた。
そのどちらも画像で。
撮った写真一枚だったよな?
不思議に思いながら開くと、一枚目は5人で撮った写真。
そしてもう一枚は、
「なっ!?」
体育館で夕美と抱き合っている写真だった。
「あいつ・・・・・」
口ではそう言いつつも、俺はその写真をしっかりと保存してホーム画面に設定した。
・・・・・透に見られたら、絶対からかわれるな。
しっかりとロックをかけて、ホーム画面が見えないようにする。
一応夕美にも二枚の写真を送ると、
【ツーショットの方、ホーム画面にするね!】
と返事が来て、思わず笑ってしまった。
こんな幸せな日々が、これからも続いていくと俺は信じて疑わなかった。
夕美と付き合いだして1ヶ月後の夏休み。
小さな喧嘩はしたりするけど、交際は順調に続いていた。
でも、それはある日突然起こった。
「夕美、そこの棚の上にある辞書取って」
ある日、俺の部屋でまったりと過ごしつつ夏休みの課題をやっていた。
「あ、うん」
そう言って体を捻り、後ろにある棚に手を伸ばす。
すると、
「っ、」
顔を歪めて、上げようとしていた手を下げる。
「ん?どうかしたか?」
不思議に思って声を掛けると、
「うーん、ここ最近こっちの腕上がんないんだよね」
と、今棚に手を伸ばした方の腕をさする。
「なんか筋でも痛めてるんじゃないか?」
「そうなのかなぁ」
「まぁ、ひどくなったら病院に行けよ」
「うん、そうする」
はい、と逆の手で取った辞書を俺に手渡しながら言う。
「早く良くなるといいな」
「うん。部活に支障がでちゃ困るし」
だけどそんな思いとは裏腹に、夕美の腕は悪化していった。
それも、悪化したのは腕だけでなく。
ガシャーン!!
部活中、大きい音が体育館に響き渡る。
音の方を見ると、そこには夕美が倒れていた。
その周りには夕美が倒れた拍子に倒してしまったと思われる椅子や作戦ボード。
「夕美!!!」
急いで駆け寄ると、真っ青になっている夕美。
「あ、ごめん。最近貧血がひどくて」
ぐったりしながら夕美は言った。
「夕美、お前病院に行った方がいいんじゃないか?」
さすがにこれは、おかしいだろ・・・・・。
「私、顧問の先生に連絡してくるね」
かながそう言って職員室へと走っていく。
その間に俺は夕美を抱き起して椅子へと座らせた。
「いつからこんなに貧血ひどいんだよ」
俺の質問に夕美は、
「2,3日くらい前・・・・・だったと思う。もともと貧血持ちだったから、立ちくらみとかはよくあったんだけど」
と力なく答えた。
その後駆けつけた顧問と一緒に保健室に行き、そのまま迎えが来て夕美は帰っていった。
それから夕美は数日間、部活を休んだ。
ラインをしても既読すらつかない。
いてもたってもいられず、心配して家に行っても誰もいないようだった。
夕美の担任に聞きに行っても、今回は何故かはぐらかされてばっかりだった。
嫌な予感が、どんどん大きくなる。
夕美から返事が来たのは、倒れてから5日後のことだった。
【ごめん!充電器壊れてて充電切れっぱなしだった( ;∀;)
明日は学校に行くよー(=゚ω゚)ノ】
そのラインに、ホッと安堵のため息が出る。
【心配掛けやがって(-""-)
おう、そうか。ならよかった】
そう返すと、再び返事が来なくなった。