その場に茫然と立ちすくむ俺。
「行くぞ、整列だ」
ポン、と俺の肩を叩いて須藤先輩が言った。
その瞬間、あふれ出る涙。
「-っ、す、みませんっ・・・・・!」
「よく頑張った。ありがとな」
須藤先輩は俺の肩を抱いて、列へと歩き出す。
「礼!!」
「「ありがとうございました!!」」
お互いの監督に集合して、話を聞く。
その間も、涙は止まらない。
「おいおい、いつまで泣いてんだよ」
試合後の更衣室、須藤先輩にそう言って苦笑いされる。
「俺があんとき・・・・・っ、ちゃんと決めてればっ」
「もう気にしなくていいっつうの。まぁ優勝はできなかったけど、ベスト8に入ることできたし」
ポンポン、と俺の頭を叩きながら須藤先輩は言う。
「悔しい気持ちはあるけど、後悔はねぇよ。むしろやりきった感でいっぱいだっつの。だから泣くな」
最後の方は、須藤先輩の声も震えていた。
そして、周りからも鼻をすする音や嗚咽が聞こえ始める。
「よし!!さっさと着替えて外に集合!!」
涙声で須藤先輩が指示を出して、みんな指示通り帰り支度を始めた。
「えー、今回の試合で俺ら三年は引退する。でもさっきも言った通り、後悔はしてない。全部出し切ったからな」
監督の挨拶のあと、須藤先輩の最後の挨拶が始まる。
三年生は全員、目を真っ赤にしていた。
もちろん、二年生も。
「それにベスト8っていう結果も残せた。だから、次はお前らで、今度こそ優勝目指して頑張ってくれ」
「「はい!!」」
「じゃあ体育館礼して帰るぞ!!」
その言葉に、俺たちは体育館の前に一列に並ぶ。
「きをつけい、礼!」
「「ありがとうございました!!」」
こうして、インターハイ予選は幕を閉じた。
インターハイ予選の翌日の部活は、休養ということで休みだった。
気にするな、と言われてもやっぱり最後のシュートが気になって、休みにも関わらず放課後体育館へと向かう。
そこで一人でシュートを打っていると、ガラガラ、と体育館のドアが開く音が聞こえた。
振り返ると、そこには夕美が立っていた。
「二日間、お疲れ様」
あちこちに転がっているボールを拾い上げながら、夕美はこちらに近づいてくる。
「あー、最後のシュート外しちまったけどな」
手に持っているボールに目線を落としながらそう言うと、
「まーだそんなこと言ってる」
と夕美は呆れたように言った。
その言葉にムッとして、
「夕美にとってはそんなことかもしれねぇけど、俺にとってはそんなことじゃ片せねぇんだよ」
と言うと、夕美は
「最後まで頑張ったんだから、いいじゃん。それとも何?健ちゃんはもしあれが自分じゃなくてほかの人だったら、ずっとその人のこと責めるの?」
と、少し怒ったように言った。
「いや、そういうわけじゃ、」
「だったらその悔しい思いを引きずるんじゃなくて、次に活かせるようにしなサイ!!」
「うおっ、あぶねっ」
夕美は手に持っていたボールを俺に投げつけた。
すかさず俺も手に持っていたボールで、飛んできたボールを弾く。
「練習熱心なのはいいことだと思う。でも故障したら元も子もないでしょ!今日がなんのために部活休みにしてると思ってるの?昨日一昨日の疲れをとってまた明日から頑張るため!!わかった!?」
「は、はい」
夕美の勢いに負けて、思わず後ずさる。
「分かったなら片づけ!!今日はもう家に帰って休む!!」
テキパキとボールを拾い始めた夕美に続いて、俺も片づけを始める。
すると、だんだんと笑いがこみ上げてきて。
「ふっ、あははっ」
突然笑い出した俺に、ビクッとする夕美。
「け、健ちゃん?大丈夫?どっかおかしくなった?」
「いや、ごめん。なんか、さすがマネージャーだなって思って」
笑ったせいで出た涙を拭いながらそういうと、
「あったりまえじゃない!!絢さんも引退しちゃって、マネージャーは私とかなしかいないんだから!!」
と夕美は頬を膨らます。
「はー。頼りになるマネージャーがいて助かるよ」
そういうと夕美は少しだけ笑った後、不安そうに口を開く。
「健ちゃん、あの約束なんだけど・・・・・ちゃんと覚えてる?」
俺はその不安そうな顔に、不謹慎にも可愛いと思ってしまう。
「当たり前だろ。俺が忘れると思う?」
夕美に近づいてそう言うと、ホッと安堵の息をつくのが分かった。
「ずっと、好きでした。俺と付き合ってください」
夕美の手を握り、ジッと目を見つめて言うと、
「はい」
と頬を赤らめ、嬉しそうにハニカミながら夕美は返事した。
やっと・・・・・
「やっと付き合えた」
夕美を引き寄せ、ギュッと抱きしめると
「大袈裟だなぁ、健ちゃんは」
と俺の中で笑う。
そりゃ付き合うまでにいろいろあったから、大袈裟にもなるっつうの・・・・・。
言葉には出さないが、夕美を力いっぱい抱きしめながら思う。
その時、
パーン!!!
何か破裂するような音が入り口から聞こえ、二人してビクッと肩が上がった。
「おうおうおうおう、やーっと付き合ったか!!」
「これでネガティブなアベケン見なくて済むな~」
「おめでとう!」
振り返った先には、クラッカーを持って立っている蒼佑と透と浩太。
「お前ら、なんでここに」
顔をひきつらせながらそう言うと、
「いやー、夕美ちゃんが俺らの教室に来て『健ちゃんいる?』って聞いてきたからこれは何かあると思ってだな」
「チャリかっ飛ばしてコンビニでクラッカー買って」
「駆けつけてみた」
Vサインをしてドヤ顔で言う三人。