「まぁ、普通に考えて迷惑だったよな。彼氏と別れてすぐそこに漬け込むようなことして悪かった」




「・・・・・」




「じゃあ、明日からは避けんなよ!!またな!」




俺はそう言って踵を返した時。




「ま、待って!!」




後ろから夕美が俺の腕を掴んだ。




「うおっ!?」




そのせいで後ろに引っ張られ、体のバランスが崩れる。




「・・・・・なんで、そんな顔してんだよ」




何とか体制を立て直し夕美を見ると、今にも泣きだしそうな表情で顔を歪めていた。





「別に、健ちゃんのことが嫌になったとかじゃない」




「いや、そんな無理しなくても、」




「違うの!」




俺の言葉を遮り否定する夕美。




「違う、迷惑なんかじゃない。ただ、どうしていいかわかんなくて・・・・・」




夕美の言っていることがよくわからなくて、頭の中が“?”で埋め尽くされる。




「あの日、健ちゃんにどこにも行くなって・・・・・他の誰よりも私のことが好きって言ってもらえて、うれしかったの」




「うん・・・・・」




「前に健ちゃんに告白されたときに言った、気持ちは嬉しいっていうのとは違って、“健ちゃんが”私のこと好きって言ってくれたことが嬉しかったの」




「え・・・・・それって、」




「私も、健ちゃんのこと好きになってるんだと思う」




夕美のその言葉に、胸が高鳴ったのが分かる。



「でも、やっぱり私あっくんと別れたばかりなのに、すぐ健ちゃんのこと気になってる自分が嫌で、健ちゃんにもどう接していいかわからなくて・・・・・」




「それで避けてたのか?」




俺がそう聞くと、小さくうなずいた夕美。




「な、んだよ・・・・・俺引かれたのかと思ったじゃねぇか」




一気に脱力して、その場にしゃがみ込む。




「・・・・・俺ら、付き合うか?」




下から夕美の手を握り、見上げる。




すると夕美は首を横に振った。




「え・・・・・なんで」




その行動にショックを受けていると、




「その前に健ちゃんはインターハイ予選っていう大事な試合があるから、インターハイ予選が終わるまでは私のことなんか気にしないで、練習に集中してほしい」




握った手をギュッと握り返しながら、夕美はそう言った。




「じゃあ、インターハイ予選終わったら付き合ってくれんの?」




そう言うと、少しだけ視線を泳がせた後、




「・・・・・私でよければ」




と小さく呟いた。




「っしゃ!インターハイ予選まで頑張るから!!」




立ち上がって小さくガッツポーズをした俺を見て、夕美は少しだけ微笑んだ。




「じゃあ、帰るか」




そう言って俺らは夕美の家の近くで別れた。




家に帰った後も、さっきの夕美の言葉が夢のように感じて、夢落ちでしたっていう展開も考えてしまった。




だけど考えすぎて周りを見ておらず、テーブルにぶつけた足の小指がものすごく痛くて、現実だってことを痛感させた。





それからの俺は、一生懸命練習を頑張った。




インターハイ予選が終われば夕美と付き合うことができる。




そのことがあるだけで余計なことを考える必要もなくなり、集中して練習に取り組めた。




そして。




「明日からのインターハイ予選のスタメンを発表する」




翌日にウィンターカップを控えた今日、部活終わりに全員集められて監督がそう言った。




全員が、息をのんで監督の言葉を待つ。




「4番、須藤」




「はい」




「5番、中村」




「はい」





「6番、本田」




「はい」




「7番、森」




「はい」




「8番────、安倍」




「っ、はい!」




「以上がスタメンだ。スタメンって言っても使えなかったらすぐに変える。ベンチの奴らも絶対に気を抜くなよ。じゃあ解散」




「「お疲れさまっした!!!」」




手渡されたユニフォームを、震える手で握り締める。




スタメン・・・・・でも、俺でいいのか?






そんなことを考えていると、




「おい!!」




と後ろから声を掛けられた。




と、同時に肩に回ってくる腕。




その主をたどってみると、そこにはスタメンに選ばれなかった数人の三年の先輩の姿。




「てめぇ、俺でいいのかとか考えてるとぶっ飛ばすからな」




たった今考えていたことを当てられ、ギクッとする。




「そんなこと考えるくらいだったら、試合で勝てるように一生懸命頑張って俺らが試合に出れるチャンスを増やせ!」




「へぼいプレーでもしてみろ。即効監督に抗議してベンチすら入れないようにしてもらうからな!!」




俺の頭を拳でぐりぐりとしながら先輩たちはそう言った。





「絶対、優勝しましょう!!」




すると、




「それは普通キャプテンの俺が言うセリフだろ」




と須藤先輩が苦笑いしながら言った。




「あ、すみません」




つい勢いで言っちゃたことを謝ると、




「集合!」




と須藤先輩はみんなに言った。




「明日からいよいよインターハイ予選だ。俺ら三年にとっては最後の試合。正直無名の俺らが優勝を目標にするだなんて、周りの奴らから見たら馬鹿げているかもしれない。それに、実際自信より不安の方が大きい。でも俺たちが今までしてきたことを出し切るぞ!」




「「はい!!」」




最後にみんなで円陣を組んで気合を入れ、解散となった。





「ちょっと」




帰り際、かなに声を掛けられた。




「ん?どうした」




「夕美から聞いた。インターハイ予選が終わったら夕美と付き合うって」




腕を組んだまま、なぜか威圧的に言われる。




「早く付き合いたいからって、試合で手抜いたらその条件私が許さないから」




「はぁ!?そんなことするわけないだろ!!」




思いがけないかなの言葉に驚いてそう言うと、




「そ?ならよかった」




と笑った。