あの日。
「私は何があっても諦めないから、健ちゃんも絶対、諦めないで」
衰弱していく君は、少しの笑みを浮かべながら言いました。
俺は、君に謝りたいことがあります─────。
「えー、新入生の皆さん。この度は入学おめでとうございます―――――・・・」
春。
満開の桜が咲き誇る中、ここ海星高校(カイセイコウコウ)の入学式が行われている。
周りを見渡せば、自分と同様に真新しい制服に身を包み、緊張した面持ちで校長の話を聞いている。
「なぁなぁ、お前、成海中(ナルミチュウ)のバスケ部だった安部健斗(アベケント)だろ」
突然かけられたその声に横目でちらりと見れば、真っ黒な短髪に切れ長の目をした奴が嬉しそうにこちらを見ていた。
「俺、明桜中(メイオウチュウ)のバスケ部だった高木蒼佑(タカギソウスケ)!!」
そう言われてみれば、試合会場で何度か見たことが・・・・・。
「もしかして、背番号7番だった?」
そう聞くと、さらに嬉しそうに目を輝かせて、うんうん、と頷いた。
「俺のこと覚えてんの!?」
「まぁ、試合会場で見かけてたし」
「まじで!?安部健斗に覚えててもらえるとかスッゲー嬉しい!!あ、俺のことは蒼佑でいいからな!」
興奮気味に話す蒼佑に、若干引き気味になる。
まぁ、蒼佑がここまで言うのも無理はない。
自分でこんなこというのは気が引けるけど、俺は中学のバスケ界じゃ結構有名な方だったと思う。
なぜなら、バスケで県の選抜チームに選ばれていて、背番号4番を身につけていた。
そして、その県選抜のチームも全国でベスト4に入るという強いチームだった。
もちろんたくさんの高校から特待が来たけど、家から近いということでバスケでは無名の海星高校を選んだ。
朝何時まで寝れるかとか、結構重要だし。
「なぁ、やっぱバスケ部入るんだろ?」
蒼佑のその問いかけに、俺は言葉を詰まらせる。
「あー・・・・・、わかんねぇ」
「なんでだよ!?もったいねぇ!!」
正直、家から近い学校からも特待が来ていたけど、特待で入学すれば高校でもバスケを続けなければいけない。
だけど俺は、高校でバスケをするつもりはサラサラなかった。
「もったいねぇよ。うまいのに」
もう一度蒼佑がそう呟いたとき、
「こら」
俺らの後ろから低い声が聞こえたかと思うと、二人して軽く頭を叩かれた。
「式の最中だぞ。おしゃべりは教室に行ってからにしろ」
チラリと後ろに視線を向けると、そこには教師と思われる人物が、眉間に皺を寄せながら立っていた。
「「はーい」」
俺らは先生が去っていったのを確認すると、顔を見合わせて苦笑いした。
―――――――――――・・・
「なーあ、入ろうぜ?バスケ部」
式が終わってからもしつこく俺を誘ってくる蒼佑。
「俺はいいよ。高校では帰宅部って決めてたから」
「絶対後悔するって!!!」
どうしても俺をバスケ部に入れたいのか、必死に説得しようとしてくる。
「っていうか、蒼佑はなんでこの高校きたの?蒼佑だって上手かったんだから特待とか来たんじゃねーの?」
すると蒼佑は、
「あー、うん。まぁまぁまぁまぁ」
と言葉を濁らせた。
なんだそれ。
まぁ別に言いたくないんだったらいいけど。
そう思っていると、
「じゃさ!!!部活見学だけでも一緒に!!ね!!?」
と、今度は部活見学に誘ってきた。
「やだよ。部活見学なんか行ったら確実に入る流れじゃん」
勧誘されて、先輩たちの勢いに断れなくて入部する姿が目に浮かぶ。
「えー。もったいねぇ。宝の持ち腐れだよ」
全く、いいセンス持っておきながら・・・・・。
そうぶつぶつ言っていた蒼佑は、急に何か思い出したようにハッとすると、すぐにニヤッと笑った。
「・・・・・なんだよ」
俺がそういうと、
「マネージャー、かわいい子が入るって噂聞いた」
と言った。