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ふと目を開けると、すでに日はなく、夜の帳が降りていた。窓から生ぬるい風が射し込む。
台所から包丁の音が聞こえる。母が帰ってきているようだ。
寝汗をずいぶんとかいていた。僕はバルコニーに出ると、空を見上げた。マンションとマンションの間から、頼りない星がうるんでいた。
あくびをした時、向かいの部屋の電気がついた。別にのぞくわけじゃないが、僕の部屋から向かいの部屋はよく見えた。
四十代の男性が一人で住んでいることを知っていた。
がらりと、向かいのカーテンが開けられた時、目と目が合った。
「晶太、ごはん」
台所から母の声が聞こえた。
僕の目に映ったのは、男性ではなく女性だった。年は同じくらい。ダーツのように彼女の視線が僕を貫いた。そして、「あっ」と彼女はいった。見ちゃいけないものを見てしまったような気がしたが、目がいうことをきかなかった。
彼女の髪は黒く、目はどこか涼しい。白いワンピースが似合っていた。
石像のように固まった僕を置いて、彼女はさっと視界から消えた。
「ごはんだって言ってるでしょ!」
「今行く!」
と言ったものの、箸を持ったのは20分も後だった。
ふと目を開けると、すでに日はなく、夜の帳が降りていた。窓から生ぬるい風が射し込む。
台所から包丁の音が聞こえる。母が帰ってきているようだ。
寝汗をずいぶんとかいていた。僕はバルコニーに出ると、空を見上げた。マンションとマンションの間から、頼りない星がうるんでいた。
あくびをした時、向かいの部屋の電気がついた。別にのぞくわけじゃないが、僕の部屋から向かいの部屋はよく見えた。
四十代の男性が一人で住んでいることを知っていた。
がらりと、向かいのカーテンが開けられた時、目と目が合った。
「晶太、ごはん」
台所から母の声が聞こえた。
僕の目に映ったのは、男性ではなく女性だった。年は同じくらい。ダーツのように彼女の視線が僕を貫いた。そして、「あっ」と彼女はいった。見ちゃいけないものを見てしまったような気がしたが、目がいうことをきかなかった。
彼女の髪は黒く、目はどこか涼しい。白いワンピースが似合っていた。
石像のように固まった僕を置いて、彼女はさっと視界から消えた。
「ごはんだって言ってるでしょ!」
「今行く!」
と言ったものの、箸を持ったのは20分も後だった。