シークレットガール

あたしは煙草に火をつける。


山吹の居る世界は、悪いことをして上に行ける世界。


山吹はその世界のトップに立つような男。


何処にでもいる、組長とは違う。


組長なんかより、山吹にはもっと向いている仕事があったんじゃないんだろうか。


例えば、福祉とか、、、


でも、無理か。


山吹組は代々続く、ヤクザ。


そこに生まれた山吹には、ヤクザになるレールしか用意されてなかったんだろう。


あたし達と同じように、、、


お母さんがあの人と結婚した以上、あたし達のレールは警察官になるもの。


楓や椿は、いやいやではなかったが、、、


あたしは、イヤだった。


でも、柚は怪我のせいでそのレールを下ろされた。


だから、代わりにあたしがそのレールに乗るしかないんだ。

シャワーを浴びて、部屋に戻ってくる、山吹。


__バサッ__


あたしは着ていた、ブランケットを脱ぐ。


山吹は新しく出来ている根性焼きに後を見て、眉を寄せる。


本当に優しい男なんだから、、、


「いい加減、慣れたら」


山吹とあたしの関係は、今に始まったことじゃない。


もう何年も経つ。


なのに、この傷を見るたびに、毎回毎回悲しそうな顔をする。


「お前も、いい加減拒めよ」

「勲章」


なんて、冗談で言ってみる。


「女の癖に、こんな勲章作ってんじゃねぇ。嫁にいけなくなる」


女の癖にって、男とか女とか関係あるのだろうか。


「大丈夫。山吹が貰ってくれる」

あたしは笑って言う。


「そんなことしたら、俺はあいつ(あの男)に殺される」


そんなこと、絶対にない。


反対はされるだろうけど、、、


警察官の娘がヤクザの組長となんて、周りを気にするあの男なら、、、


「勘当してくれるかもね」


その方が、あたしにとってはいいのかもしれない。


「リン。そうやって、自分を否定すんな」


山吹は顔を歪める。


「意外と、、、それが1番良いのかもよ」


そしたら、少しは生きやすくなるのかもしれない。


「リン」

「そんな顔しないで、、、冗談、だから」


口だけで、そんなこと本当には出来ないんだから、、、


山吹は、あたしのことを抱き締める。


そして、いつものように体を重ねた。

季節は春から梅雨の時期に変わろうとしていた。


城高に入って、約2ヶ月。


学校生活にもなれ、それなりの生活を送っていた。


あの日から、陸は毎朝迎えに来る。


決まって、同じ時間に、、、


「リンちゃん〜」


教室に入り、愛華が話しかけてくるのも、いつものこと。


それに返事をしなくとも、勝手に話し始める。


「勝がさ〜」とか「斗馬が〜」とか、そんなどうでもいい話。


それを聞き流したり、たまに相槌をしたり、、、


彼らは、あたしが知らなかった学生生活を教えてくれているようだった。


陸との関係も特に変わることもなく、あの日以来キスをすることもない。


山吹とは情報交換のために、今でも時折体を重ねている。

そんな日々を過ごしていた頃、あの男から連絡が来た。


『今すぐ、来い』


自分から連絡してきたくせに、それだけ言うと一方的に切られた。


あの男が電話して来た理由は何と無くわかる。


ここに来て、約2ヶ月も経っている。


それなのに、あたしはあの男に何1つも報告していない。


そんなあたしに、あの男は痺れを切らしたのだろう。


あたしは彼らに気付かれないように、小さなため息を零した。


でも学生をいるあたしにとって、ここを抜け出すのは意外と難しいことだ。


なんせ学校に居る間、彼らの誰かしらがあたしの傍にいるのだから、、、


はぁ、どうしたものか。

でも行かないという、選択肢はない。


行かなきゃ、また呼び出しが来る。


それに、変に詮索もされたくない。


「帰る」

「え?リンちゃん、帰っちゃうの?」


愛華なら、そういうと思った。


「あ〜、親から呼び出し?」


自分から言っときながら、「?」なんか付けちゃったし、、、


「呼び出し?」


そりゃ、聞き返しますよね、、、


「そう」

「なら、仕方ないよね〜」


愛華がバカでよかった。


この時、心底そう思った。


彼らは何処に行ったのか、教室にはいない。


変に突っ込まれたくもないし、、、


それに、彼らが愛華のようにバカとは限らない。


なら、彼らが戻ってくる前に、学校を出よう。

愛華にさよならを告げ、学校を後にした。


こうやって1人で帰るのは、いつ振りだろう。


何かと、彼らと一緒にいる。


そのせいで、1人で居る時間は減った。


だからか1人で歩くのが、少しだけ、、、


ホントに少しだけ寂しく感じた。


1人には、慣れていたはずなのに、、、


どうしてあたしは、こんな気持ちになってるんだろう。


あたしは自分の気持ちを隠すように、足早にあの男の元へと向かった。


警察庁に着くなり、憂鬱になる。


ここにはあたしが嫌いな、警察官がゴロゴロといる。


何もしてにくとも、疑いの眼差しを向けてくる。


でも中に入らなければ、あの男には会えない。


用があるなら、そっちから来てもらいたいものだ。

あぁ、、、


でも、あの男が家に来るのは正直ごめんだ。


なら、やっぱりあたしが行かなきゃだめか。


1人で文句を言い、1人で納得した。


早く終わらせて、早く帰ろう。


そして、意を決して中へと入った。


警察庁長官の部屋の前で、一応ノックをする。


前にノックもせず中に入ったらお偉いさんと一緒で、後からグダグダと言われた。


あんなのは、一生ごめんだ。


「はい」


その言葉を聞き、部屋の中に入った。


どうやら、今日は誰もいないようだ。


だからって、この男となるべく一緒には居たくない。


さっさと用件を終わらせて、早くこんな場所から立ち去ろう。

「どうなんだ」


部屋に入った途端に聞かれる。


「どうなんだ」と、急に聞かれても困る。


大体は予想が付くけど、、、


でも、一応、、、


「何が」

「任務以外に何がある」


それしか、あなたがあたしを呼び出すことなんてないですよ~。


「別に」


手がかりを掴んでたら、連絡の1つでもするだろう。


それをしないということは、掴んでないと考えないのだろうか。


あたしの言葉に、男は鋭い眼差しを向けてくる。


「もう、2ヶ月だぞ」


そんなことを言われても、わからないものはわからない。


あたしも負けじと、目の前の男を睨む。


警察が使えないないから、あなたはあたしに頼んだんでしょ?


なら、大人しく待ってれば良い。