この街は警察官で溢れている。


それは、この街が荒れているからで、、、


毎日のように、パトカーのサイレンが聞こえてくる。


あたしはそれに毎回、耳を塞ぎたくなるんだ。





「、、、ン、リン。人の話を聞いているのか」


目の前にいる男が、上からものを言う。


この男は、いつだってそうだ。


「やることやってるんだから、いちいち文句言わないで貰いたいんですけど」


あたしは男を睨む。


そう言えば、この男が何も言えないのを、あたしは知っている。


「柚(ゆず)のこと、頼んだからな」


柚とは、あたしの妹のことだ。


人に頼むくらいなら、自分で面倒を見ればいいのに、、、


そう思いながら、部屋から立ち去ろうとした。

そんなあたしのことを、男は呼び止める。


「リン」


呼び止められ、あたしは男を睨む。


でも男は呼び止めておきながら、何も言おうとしない。


「用がないなら、わざわざ呼び止めないで」


そう言い残し、今度こそ部屋を出た。


早くこの建物から、立ち去りたい。


「リン」


そう思っているのに、また呼び止められる。


「何」

「相変わらず、素っ気ねぇ奴だな。久しぶりの再会だって言うのに」


何が、久しぶりの再会よ。


2、3週間前に、会ったじゃんない。


「親父からの任務命令か?」


親父とは、さっきの男のことだ。


そして今話しかけてきた男は、兄の楓(かえで)。

「あたしがここに来る理由なんて、それしかないでしょ」


あたしは楓のことを気にせず、歩みを進める。


「まぁ、そう言うなって。柚は元気か?」


楓も気になるなら、自分で連絡すれば良いのに、、、


「元気だから、連絡ないんじゃない」

「全く、うちの女どもは冷てぇ奴ばっかだな」

「楓だからでしょ?ねぇ、リン」


そこへ、姉の椿(つばき)が入ってくる。


「椿!?」


楓は椿の登場に慌ててるようだ。


「何よ、その態度」

「いや、、、別に」


楓が兄で、椿が妹なのに、、、。


「リン、少し痩せたんじゃないの?」


椿は、いつでもあたしのことを始めに気に掛けてくれる。


「気のせいだよ」

「そう?無理しちゃダメよ?」

椿はあたしの頭を、優しく撫でる。


「大丈夫」

「それ、返事になってないから」


そう言って、笑った。


その顔はお母さんにとても似ていて、胸がギュッと締め付けられた気がした。


「今回の任務先は?」

「城西」

「城高か。ってことは、月光が居るところか」


楓が言う。


月光、、、。


全国ナンバー1の暴走族。


「月光って、トップのチームでしょ?」

「椿でも、知ってんだな」

「一応、警察の人間ですから」


そう、楓も椿も警察の人間。


キャリア組みの2人は、今最短コースで上へと駆け上がっている。


楓は警視に、椿は警部へと、、、。


そしてあの男は、警察のトップに君臨する男だ。

あたしが今日ここに来たのは、あの男から新たな任務を命令されたから。


任務と言っても、簡単に言えば、、、「族潰し」


あたしがこの街に来て、約3年。


その間にいろんなチームに忍び込んだりして、結構の数のチームを潰してきた。


それでも、この街は暴走族で溢れている。


別に暴走族のみんながみんな、悪いわけではない。


ただ走りを目的にしている族だっている。


だけど、その中には薬や女に手を出す奴がいるのも事実だ。


警察だって、それなり動いてはいる。


それでも、この街は「平穏」とは言えない。


毎日、何処かしらで喧嘩が起きている。


この街で暮らしてる人間からしたら、たまったもんじゃないだろう。

「親父も、いつまでこんなことやらせるつもり何だか」


楓が言う。


「リンも嫌なら、断っても良いんだよ?」


椿は心配そうな顔をする。


「別に」


あたしはやりたいわけでも、やりたくないわけでもない。


本当にどうでも良いのだ、、、。


それ以上、2人は何も言わなかった。


建物から出る際、「気をつけろよ」と楓から言われた。


それにいつものように「大丈夫」と答え、あたしはここを後にした。


ここ、、、警察庁を。


警察庁が見えなくなると、1人の男に連絡を入れる。


この任務には彼は、欠かせない男。


「いつもの所で」


自分から電話をしときながら、自分の用件だけを伝え、電話を切った。