しゃくりを上げながらふと顔を上げると、廊下の先のリビングに繋がるドアから母親がこっちを見ていた。


泣き腫らした真っ赤な眼。
口端は切れて新しい傷が痛々しく口を開いている。


母親は青と眼が合うと逃げるようにドアを閉めた。


母は見ていたのだ。
父親に服を脱がされ愛撫される青を。
ドアの隙間から今の今まで眼も逸らさずに見ていたのだ。


青は泣くのを辞めた。
涙も止まった。
泣いても喚いても宥めてくれる優しい手はこの家には存在しないのだ。
此処に在るのは、暴力と絶望と恐怖と、それだけだった。


助けて。そう叫べば、それは何倍もの痛みとなって返ってくる。
助けて。そう叫べば、それは酷く疲れきったため息として返ってくる。


青にとって自分の親という存在は恐怖と気遣い以外の何ものでもなかった。

家庭内暴力。
幼児虐待。
青はまだその言葉の意味を理解出来るような歳ではなかった。