さっき時計を見た時はまだ30分だったはずだ。いつも父が自室から出てくるのは50分頃。いくら何でも20分も既に経過したとは思えない。リビングから洗面所まで掛かっても1分。歯磨きを始めてまだ3分も経っていないはずだ。だからまだ最後に時計を見てから5分しか経っていないはずなのに。今日は早くに家を出る日だったのか。否、それなら、母が教えてくれるはずだ。それとも急に予定が変わったのか。否、それでも母が教えてくれるはずだ。今朝の母はどうだった。何か変わったところはなかったか。ああ、そういえばいつもより少し目が赤かったかもしれない。でも新しい傷は増えてなかったし。否、でも、もしかすると見えないところを殴ったのかもしれない。朝から殴られたショックで父がいつもより早く家を出ることを伝え忘れたのかもしれない。そんなことを考えている余裕がなかったのかもしれない。だから計算が狂ったんだ。何か言い訳を。言い訳を。
「あ、の…、あ…」
口の中がからからに渇く。唾液が糸を引き、口に異臭が漂う。指先が冷たくなり掌がたくさん汗をかいた。口が金魚のようにぱくぱく動く。父の眼は死んだように冷たく無機質。
「……ご、めんなさぃぃっ――」
伸びて来た手に反射的に頭とお腹を庇うようにうずくまり頭を抱えた。
はっとする。父はこのポーズを嫌う。なのにいつもつい無意識にこの体勢をしてしまう。頭上で舌打ちする音がして、青は歯を食いしばった。