「可及的速やかにフリーターは」
3章 選択の余地なくフリーターへ
・ボクがインドへ行った理由
kota氏は話の展開に戸惑っているようだった。
「再就職できなかった」ので仕方なくフリーターになった。
「会社に縛られたくない」からフリーターになった。
「自由な身分でいたい」からフリーターになった。
「ただなんとなく」フリーターになった。
要するに、会社を辞めた流れでそのままフリーターになった、という話なら理解が早い。
だが目の前の男は定収入を捨てた後、就職活動をするわけでもなく、アルバイト探しを始めるでもなく、インド渡航を決行する。
フリーターになったのは帰国後のことだ。
kota氏からすればインドへ行くことにどんな意味があるのか見当もつかないだろう。
「どうして、インドへ行かれたんですか?」
常識的に考えるならば、塾講師を辞めずにいた方が「有益な人生」を送れる公算は高い。
会社を辞めた後はインド一人旅によって「無益な人生」に転落する危険を冒すより、再就職する道を選んでいた方が賢明で安全というものだ。
だが、ボクはそうした「常識」を疑っていた。
今だから言えるのだが、ボクはそんな日本の手垢がついた「常識」に浸蝕されかかっている自分を解毒するためにわざわざインドへ単身乗り込んだのだった。
当時はなぜ自分がインドへ行くのかよくわかっていなかったのだが。
ボクはインド行きの理由をこう説明した。
「日本での経歴というか、これまで歩んできた道、路線を一旦リセットするために、日本とはゼンゼン違う別世界に行って、考えようと思ってインドへ行ったんです」
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